5/28/2018

サツキ

五月。
エアコンのいらない気持ちの良い季節。
みどりの日につくるくんは1歳になり、6月の手術の予定も決まった。

難しい手術になる。
去年の11月に退院してから、毎月のように近いうちに行われると言われ続けていた手術の予定日がようやく立った。
心臓を開いてみないとわからないけれど、二心室修復できる可能性が7割と言われている。半年前は3割だった。

7割。

高い確率のようで人の人生に関わることだと思うと、とても微妙な数字。
いや、そもそも1歳児のこの先の一生に関わることをこんな確率で表されることに、なんとも言えない違和感を感じる。

それでも、もうこれ以上先延ばしにはできない。

いや、正確にはさらに時間を稼ぐという結果になる可能性が現時点で3割ある。


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これだけを読んでもよくわからないことが多いと思うのでざっくり説明すると、
つくるくんの心臓には右室と左室、右房と左房を隔てるそれぞれの壁に穴が空いている。
理想の治療法はその穴を塞ぐ二心室修復という治療法。
しかし、左心室が小さいということと、左心室の動きが弱いということ、さらに弁の形状の特異性が理由で、そこに踏み切れないでいた。

これまでの成長とその間に少しずつ効いてきた薬のおかげで、左室の小ささと動きの弱さは改善され、数値的には二心室修復にいける見込みになった。

残された問題は弁の形状。正常な心臓の場合は右と左に別々に存在する弁が壁が欠損しているために二つが合わさって一つの弁になっている。それゆえの血流の漏れ、いわゆる弁逆流が以前大きな問題となり、2度目の手術となった訳だけれど、その弁に壁を作って二つに割ったときにそれぞれがちゃんと弁として機能するかが今回の手術の鍵となる。その弁の形状の詳細は心臓を開けて見ないとわからない。エコーや以前の手術時のカルテなどから判断して、二心室に行ける可能性が現時点で7割。しかし、壁を作ってうまく動かなかったのでは困るので、実際に開いてみて、その場でさらなる検証を行って9割以上いけると判断されて、初めて二心室修復に踏み切られる。

さて、二心室修復ができない心臓はどうするのかというと、単心室修復という治療法がある。上大静脈と下大静脈を心臓から切り離し肺動脈に直接繋ぐことで、右室と左室を合わせて一つの心室として全身に血液を送る。そして全身を回った血液は心臓を介さず直接肺にいく。上大静脈の循環を切り替える手術をグレン、下大静脈も切り替えて全ての循環を切り替える手術をフォンタンと呼ぶ。この単心室修復の鍵は肺が握っている。肺に血液を送るのに心臓を介さないため、肺の血管抵抗が低く維持されることが絶対条件になっているのだ。

そして、ダウン症児は肺がとてもデリケートなため、この単心室修復に根本的に向かない。この肺の血管抵抗を守るために、生まれて1週間後の最初の手術で肺動脈を絞扼し、壁の欠損や弁逆流によって肺に血が流れ過ぎないようにしていた。そして現在、生後1年経ち、体が成長したためにこの絞扼がきつくなりすぎて、肺への血流が少なく成り過ぎたので、何はともあれこの絞扼は近いうちに拡げなければいけない。今回の手術で、もし二心室修復が行われなくても、この絞扼に関しては何かしらの措置が行われる。

現時点の肺の血管抵抗をみると、やはりグレンはともかくフォンタンは厳しいだろうとみられている。

転院する前の病院では、二心室修復は無理だと診断されていたため、すぐにでもグレン手術を行うということになっていた。そしてこれまで受け持ったダウン症児でフォンタンまで行ったケースは一人もいないと、その時の担当外科医には説明されていた。グレン手術のみでも、血液循環はかなり回復する。そうやってフォンタン待ちをしているダウン症児が少なくない数いる。だが、どうしても古い血液と新しい血液が混ざってしまうため、チアノーゼが残り、成人するころには他の臓器に支障をきたし、長く生きられないことが多い。

今の病院では、ダウン症児の場合、最終的にそれしかないというところまで追い詰められないと単心室修復は行わない。それでも、成功例はあると聞いている。きっとそのためにはまだ説明を受けていないオプションや治療プロセスがあるのだろう。

二心室修復ができる可能性が7割。壁は作らず、絞扼だけ拡げる可能性が3割。壁は作るが、弁の形状的に完全に閉じるのが危険だと判断された場合、微妙に隙間を残すことで、なんとか循環が成り立つようにする可能性もあると聞いている。その場合は、成長の過程でその隙間が問題になった場合にまた次の対策が考えられる。今後、家庭での酸素補助がいるかどうかも、その隙間を含めた循環の形による。

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7割。
確率っていったい何だろう。
手術の日、一体どんな気持ちで結果を待てば良いのだろう。

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