4/13/2021

ニチベイ

 

友人と話していて、アメリカから日本に戻ってきて7年、イラストレーターという仕事をする上で、日本とアメリカ、どちらの方が住みやすいのかと聞かれた。アメリカは自由な国だから、自由という印象の強いイラストレーターという仕事はアメリカの方がやりやすいんじゃないかと思っていたと、その友人は言う。

その場では、今のところ日本かなと答えた。今でもアメリカからの仕事も受けていると前置きした上で、実際に日本に帰ってきてからの方が大きな仕事ができているし、住む上で日本の方が医療保険とか治安とか楽な部分も多いという話をしたのだけれど、それについてその後も頭の中で勝手にぐるぐると考えてしまったので、少し書き出してみた。

これはあくまで結果論で、こんな算段が元からあったわけではないが、アーティストというマーケットで自分を売り込むに当たって、日本の方が自分が目立ちやすいという側面はある。アメリカには自分と同じように芸術で成功したいという人が世界中から集まってくるので、日本生まれは一つの武器にはなるが、それだけで自分を目立たせるのは難しい。もっと強烈な才能があればどちらにいてももっと活躍できると思うが、自分程度の才能だと簡単に埋もれてしまう。しかし、日本では、自分みたいにアメリカでアートの教育を受けて、アメリカ仕込みの価値観を持って仕事をするイラストレーターはまだまだ珍しい方なので、それだけで目立つ。目立てば、そこに仕事のチャンスがあり、来た仕事に対してちゃんと対応することができていれば、次に繋がる。日本には海外への憧れというか、西洋というだけでいいものと思いがちなところもある。例えば、芸能人の渡辺直美は実際に才能にあふれてると思うが、アメリカと日本ではその目立ち方にかなり差があると思う。日本だと海外で活躍する日本人ということで、それだけでかなり目立つし、本質である才能の良し悪しよりも、その状態だけを憧れられる。堂々としてアメリカ仕込みな態度で仕事をすれば、それだけでまかり通ったりするのだ。あんまりそんなふうには仕事はしてないけど。

生活面でいうと、自分は日本人だから日本に住むのが楽。アメリカに住むならアメリカ人の方が楽。と、最近は思っている。医療保険とか安全とか気候とか、比べればそれぞれに良し悪しはあるけれど、それはどちらかの方が優れているからどちらかを選ぶというほどではない。他人を気にしない個人の好きなようにやるアメリカの社会は気楽で好きだけれど、日本人の集団性で保たれる秩序は時に堅苦しいが安全でホッとする。日本は日本人が作った国だから基本的には日本人のために機能するようにできているし、アメリカはアメリカ人が作った国だからアメリカ人のために機能するようにできている。外国人が異国で住むためには許可がいるし、その許可された立場を守り続けなければならない。無条件に受け入れらるわけではないのだ。マイノリティーで外国人という立場は、マッチョな精神で居続けなければ、ふとした時にどっと疲れるのだ。それに国の情勢が大きく揺れる昨今で、選挙権がなく、自分の住む社会の決め事に原則的には自分は関係ない、関与することができないという立場は、住んでいてあまり心地よくない、あくまで個人的に。だから次にアメリカに長く住むときは、永住権ではなく日本国籍を捨ててでもアメリカの市民権を取って住みたいと最近は考える。余談だが、日本人はどこで生まれても日本人から生まれた人が日本人。アメリカ人はは誰でもアメリカで生まれた人がアメリカ人。という根本的な成り立ちの違いは面白い。

と、色々言っても、つまるところ、自分は良い絵が描ければ満足だし、描けなければ不満なので、どちらにいても満足できるかどうかは自分次第である。