この作品はもともとアフリカなどの発展途上国に本などの教育を通してサポートするいうNPO団体が主催するオークションのイベントに寄付するためにつくられたもので、好きな本を選んでイラストするというのがテーマ。それで選んだのが村上春樹の”スプートニクの恋人”という中編小説。
この小説、人の根本的な孤独を宇宙を孤独に廻り続ける人工衛星に例えながら奇麗に描写していると思うのだけど、どこか優しくどこか悲しく、村上春樹らしい空想と現実の交差が僕は読んでいて心地よい。
僕も、人は根本的には孤独だと思う。でもこの絵を描いた時、それは逃れられないもので、だからこそ人は強くなければならなく、だからこそ弱く悲しいものだと思っていた。今は少し違う。人の根本的な孤独は、僕たちに”私”という欲望と煩悩の渦巻く自我が与えられた代償に自分でまわりに壁をつくることで生まれた一種の幻想でもあると思っている。自我があるから、人は多くを求め、自我があるから、人はまわりにイライラし、絶望し、まわりの気持ちがわからなくなる。でも、自我のおかげで人は進歩し、自我のおかげで人は思考し、道を選び、喜びを作り出せる。僕たちの心はとても痛みに対して恐がりで、か弱いので、僕たちから”私”というものがなくなることは健康にこの社会に生きようとしている限り難しい。でも、このたった今、この瞬間のこの世界にいるすべての動植物、物体を含めた、全てでひとつの完全なエネルギーの流れの中にいる仲間であるということを感じとる感覚はまだ僕たちの中にも残されていると思う。自我の潜在力を残しながらも、湧き起こる感情や欲望に無意識に反応することをやめ、平常の認識の中に引きずり出すことで、孤独の壁が溶けて、周囲との一体感の中に、人の、自然の、宇宙の優しさを感じることができる。
ちょっと大げさかな。だからどうというわけでもないけど、この絵をみて今はそんな風に思う。誰かがそうやって少し優しい気持ちになってくれてたらいいなぁと思う。
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